中国広西壮族自治区の養蚕・製糸の現状について

 

(独)農業生物資源研究所

 木 下 晴 夫

 

平成181127日から1217日までの3週間、中国広西壮族自治区政府経済委員会及び広西繭糸綢行業協会からの要請により、中国広西壮族自治区(広西省)内の製糸工場の技術指導に行ってきましたので、養蚕・製糸の現状についてご報告したいと思います。

広西省は中国南部沿岸地区の南西部に位置し、面積は27.7Km2で日本の面積の約62%の広さがあります。気候は面積が大きいため場所によって異なりますが、省内の北部は中央アジア熱帯気候、南部は亜熱帯気候に属しています。

広西省における農業の主要作物はサトウキビ(中国全体の60%を生産)やジャスミン茶等ですが、近年これらに加えて桑が栽培されるようになり、2006年には桑園面積が12万haになりました。2001年の桑園面積は2万ha程でしたが、毎年2万ha規模で増加しており、桑園面積の更なる拡大が予定されています。この桑園拡大の事業は中国中央政府の「東桑西移」という政策下で行われており、養蚕地帯を中国東部地域(江蘇省、浙江省、山東省等)から中国西部地域(広西省等)に移すというプロジェクトを数年前から始めました。この「東桑西移」と書かれた大きな看板は広西省内の養蚕地帯のいたるところで見られ、今後は桑が省内の主要作物になるのは必至です。

 

    写真1.「東桑西移」の看板          写真2.選繭(解じょ率50%台の繭)

広西省における2001年の繭生産量は3万トンでしたが、2006年には約6倍の185千トンになりました。これは中国全体の繭生産量の約30%に相当し、広西省が繭生産量で全国1位になりました。

このような急激な繭増産のためか、繭質は年々低下しており、繭の品質向上のための養蚕技術の普及が今後の大きな課題です。実際、省内の3つの製糸工場で原料繭を見ましたが、いずれの工場の繭も解じょ率が50%台の荷口が大半であり、中には50%以下の荷口も散見されました。

繭質の悪い解じょ不良繭が多くなった最大の理由は、以前中国で行われていた繭検定が行われず繭質評価がなされていないためであると思われました。そのため、広西繭糸綢行業協会は繭の格付け制度の復活に向けた陳情を中国中央政府に行っているようですが、諸々の事情から実現はかなり難しいとのことです。さらに、広西省内の製糸会社に加えて、江蘇省、浙江省、山東省等の製糸会社が繭の買い付けに参入しているので繭の争奪戦が極めて激しいため、質の良否よりも量の確保が優先されていることも繭質低下の原因になっているようです。このままの状態が続くと繭質は益々低下して、蚕糸業全体が深刻な事態になるのではないかと多くの関係者が危惧していました。

次に、製糸の状況ですが、広西省内には現在70数社の製糸会社があります。その内の半数は2006年に新たに発足した製糸会社ですが、いずれの会社も浙江省等から製糸の熟練技術者を招いて製糸を運営しているとのことです。南寧市で開催した製糸技術講演会には、省内各地の20数社からベテラン技術者を含め多数の技術者が参加して、活発な質疑が行われましたが、日本の製糸技術を習得したいという強い意欲を感じました。

 

  写真3.製糸技術講演会(南寧市)       写真4.技術講習会(於製糸工場)

また、私は広西繭糸綢行業協会が選定した3つの製糸会社、すなわち横県桂華繭糸綢有限責任公司、柳城県鵬金源繭糸綢有限公司及び柳城県石門山糸綢有限公司を訪問し、それぞれの会社に2〜4日間滞在して技術講習会並びに工場の技術診断・指導を行いました。

訪問したいずれの公司の工場規模及び製糸設備は概ね同程度ですので、ここでは柳城県鵬金源繭糸綢有限公司について紹介します。本公司は1日3交代24時間操業を行っているために、従業員数は多人数の500人です。主要設備は、石炭ボイラー、中国製6段バンド熱風式乾燥機、中国製の真空式煮繭前処理機及び進行式煮繭機、中国製自動繰糸機9セット(1セット400緒)であり、年間の生糸生産量は400トンです。

     

    写真5.真空式煮繭前処理機       写真6.真空式煮繭前処理機と進行式煮繭機

この工場だけでなく他の製糸公司も同様に行われていますが、真空による煮繭前処理を行っていることが特徴的でありました。これは煮繭前に吸水倍率で10.2倍程の水(25℃〜30℃)を繭腔内に吸水させる方法で、浙江省から来た技術者が普及したようです。その後、前処理された繭は進行式煮繭機へ投入され処理されます。煮繭機は下段のみを使い、まず最初に蒸煮部へ入り、次に調整部、最後に逆浸部、煮繭時間8分で煮繭が行われていました。繰糸調査の結果から、@煮繭前処理での、真空から大気圧への復圧時間及び前処理繭の放置時間、A蒸煮部温度勾配及び蒸気の流れ方(排気筒)、B調整飛び込み温度、C調整部温度勾配、等の煮繭上の問題点を指摘するとともに、直ちに変更できることについては実行するように指導しました。

煮繭前処理についてみると、日本でも中国と同様な真空処理機を使用して、繭層を濡らす程度の吸水量ですが、煮繭前処理を実施していた製糸工場が数多くありました。本工場の真空処理機は復圧時間の自動化がなされていませんが、作業者がバルブの開閉量を調節することで復圧時間の制御をすることができるので、その操作方法について指導を行いました。一方、進行式煮繭機ですが、広西省の多くの製糸公司が同様の煮繭機を使っています。この煮繭機は条件変更の自由度が少ない機構であるため、繭の性状に対応した幅広い条件設定ができないという問題点がありました。そこで日本で一般的に使用している煮繭機の機構につて説明して、煮繭機改造の参考にするように指導しました。

 

    写真7.自動繰糸機                写真8.給繭機

次に、繰糸工程ですが、自動繰糸機は中国製のD301飛宇2000繰糸機です。この自動繰糸機は索緒部と給繭機に特徴があります。日本のニッサン式と恵南式の長所を取り入れた自動繰糸機だと言われています。 本工場では解じょ率が56%の原料繭を繰糸していましたが、糸故障発生回数は100緒10分当たり44回とかなり多い状況でした。しかし、繰糸作業員が多く、かつ若いということもあり、繰糸状況は比較的良好に見えました。

製糸各工程のリーダに対して、各種データの収集方法、収集したデータの見方等についても指導を行ってきました。

以上、中国広西省へ製糸技術指導に行った概要を報告しましたが、今後広西壮族自治区の蚕糸業は問題を抱えながらも、さらに発展するであろうと思います。


トップページへ戻る

inserted by FC2 system